私は敵じゃない。
どうしてだか、絶対的な確信をもってこう言えるの。
予見者の転生
昼休みに屋上へ呼び出されたを待ち受けていたのは、やはりというか何と言うか。
「お前は何者だ?」
などと失礼極まりない言葉をのたまう隣席の少年と、その背後で怯えたような目をしている神隠しの少女だった。
「自己紹介したじゃない。聞いてなかったの?」
おどけて言ってみるも、さらに険しい目で見られるだけ。
どうやらこの少年に冗談なるものは通じないらしい――――は溜息をついた。
「私はただのしがない霊感女だよ・・・。いささか日本語の使い方間違ってる気がしないでもないけど、こうとしか言いようがない」
確かにあまり正しい日本語の使い方だとは思えなさげな言い方ではあるが、それでも十分に意味は伝わった。
「・・・・・・・・・つまりお前は関係者ではないと?」
「・・・・・・何の、か言ってくれないとわかんないけど、そうだね・・・。少なくとも何かに関係してる者じゃない」
肩を竦めて話すに、空目はどうしても疑問の意を拭いきれないらしい。
「ならばお前は、何故この学校に来た?」
「・・・・・・・・・は?」
は呆気に取られた。
何故?そんなの。
「・・・・・・寮があるから引越し先見つけなくてもいいし・・・。レベルもそこそこ私が行けるぐらいだったし」
それ以上に理由なんてないわ。そう言うと、空目はそこでほんの少し考えて、言った。
「ならば、お前は"魔女"の存在を知らずに此処に来たのか?」
「・・・・・・魔女?」
が怪訝な表情をするのも無理はないが、空目は果たして真剣そのものだ。
「そうだ。この学校に在籍する生徒となってはいるが、ある意味在籍していない架空の人物。生徒は皆、彼女を"魔女"と呼ぶ」
わけのわからない説明はさておき、はさっと頭の中を巡らせた。
「・・・・・・・・・知らない。私はそんな人の存在は知らないよ」
それなら良い。空目はそう前置きした。
「もともと関係があるとは思ってはいなかった。ただ、彼女はお前のような人物を"呼ぶ"ことが出来るだけに警戒は必要だ」
どこかひっかかる空目の物言い。
私のような人物を"呼べる"存在。
「・・・それは、呼ばれた側は知ってる?」
問うたけれども、まるでそれは確認。
知らないはずなのに、はそれを知っていた。
「彼女は能力を呼ぶ。人物そのものを呼んでいるわけではない」
空目は淡々と答えた。
「そっか」
も短く答えた。
能力だけが呼ばれたのだとしたら、私自身に呼ばれている感覚はなくて当然だ。第一、私はそこまで自分の力をわかっていない。
ただ、それは厄介な可能性を残すことになる。
万が一、いやそれよりももっと。確率は高い。
「寧ろ確立、っていったところか。・・・・・・・・・その"魔女"さんと私が会うことはあるのかな」
空目の回答は短かった。
「ああ」
空目が立ち去った後も、は1人その場に佇んでいた。
簡単なことだ。
帰り道がわからないのである。
行きは空目の後をついていけばよかったのだが、その空目はさっさと帰ってしまった。
この学校は山の中に建てられただけあって、敷地が広い。それをすっかり失念していた。
行きに道を覚えておこうにも、何故か擦れ違う人々から奇異の眼差しで見られて仕方なく俯き加減だった。
はー、と息をついた。
「・・・・・・仕方ないかぁ・・・。教えてもらおう」
誰に、ではない。
「・・・・・・・・・こんなところにいるとは思わないけどね・・・・・・」
いたら儲けもんだ。そんな言葉を言外にのせて、は呼んだ。
「灯」
その頃食堂にいた空目は、微かに鼻をひくつかせた。眉間にはシワが寄っている。
あやめが、きょろりと辺りを見回した。
「どうかしたの、恭の字?」
誰より変化に目聡い亜紀が尋ねる。
空目は答えて短く言った。
「・・・・・・・・・甘い匂いがする」
瞬間、その場にいた文芸部員が全員固まる。
空目の鼻が良く利くのは誰もが知っている。その空目が険しい顔をして、甘い匂いがすると言えば。
「・・・あやめ、何かわかるか?」
突然話を振られたあやめが強張るが、珍しくすぐさま立ち直って目を閉じた。
「・・・・・・・・・『干渉者』です・・・・・・。とても強い、力を持った・・・・・・・・・」
あやめが言った"干渉者"なる存在の意味はわからないが、とにかくその存在が異質なものだけは理解した。
「どこからだ?」
「・・・・・・・・・・・・屋上です・・・・・・!」