「灯」




 呼んだら、私が呼び寄せたかったものと同時に、彼が現れた。



 ………どうしてだか、物凄く険しい顔をして。













        予見者の転生


















「……………………」

 思わず声が出なくなる。

 ええとええと、どうして空目君が灯と一緒にご登場するんだろう。

 ていうか、………後ろにいる長身の男の子は、誰…?


 訊きたかったことは沢山あるんだけど、私より早く、空目君が口を開く。



「……お前は、何だ?」

 私ではなく。

 私の隣にいる、ぼんやりとした光に向かって。





 ――――灯のことを説明しようと思うと、これほど説明しづらい存在も珍しいものだと痛感する。

 一応人型としては男のような姿をとってはいるけれど、はっきり言って灯に実体はないからだ。

 今のようにぼんやりした光が一番多い、と思うし。


 大体物心ついたときから一緒にいるのだから、説明がつかなくても「そういうことだから」と納得している部分が多々あるワケで。

 改めて「何だ」と訊かれると、私としてはかなり困る。




 ……どうしよう。やっぱりお前は魔女の仲間だったのかとか言ってあやめちゃんに消されちゃうと大いに困る。


 1人で20面相をしている私を見てこれでは始まらないと判断したのか何なのか、再び空目君が訊ねる。

 ただし、今度は私に向かって。



「…何故お前が『干渉者』を呼べる?









 ………………待って。ちょっと待って下さい空目サン。

 ここでワンモアプリーズとか言っちゃやっぱりNGですか。駄目だよね普通…。


「……『干渉者』って、何。空目君」

 私今初めてそんな言葉聞いたよ。

 言外に含めた言葉も、どうやら彼はきちんと受け取ってくれたらしい。途端に眉間にシワが寄る。

 …そんな表情したら美人が台無しだよとかっていうのもここで言う台詞じゃないよね…。






「………つまり、此処には私以外に『司る者』がいるわけだな……。珍しい領域だ」



 口を開いたのは空目君でも彼の後ろにいる少年でもなく。


 私の隣。――いつの間にか人の形をとっていた。純白で、光に包まれたような衣装も相変わらずだ。






「……灯?」

 私の存在を無視するかのように、灯は辺りを見回して眉間にシワを寄せる。

 …空目君とはタイプ違うけど美形なんだから、そんなことしちゃ勿体無いってのに…。

「ふん。…そうそうあることではないが………そうか、私が此処にこうして出現できているのはの能力故というわけだな」

 まったくもって不愉快だというように、灯はふんと鼻を鳴らした。



 灯がここまで不機嫌なのも珍しい。…が。私にはそれ以上に引っかかった言葉が幾つもあった。


「……司る者って何、灯。しかもアンタが此処にいるのが私の能力のせいって何?」

 視えることがそんなに影響でかいもんなの?


 私の問いに、灯は違うと言って首を横に振った。






「…………そのうちわかる。だが、あまり私を呼ぶな

「え、なんで」

「……本物が此処にはいる。それに、…此処の庵はあまり気分の良いものではないらしいからな…」


 それだけ言って、またしても私にはわけのわからない言葉を残して灯は消えた。






 本物。庵。

 多分、『干渉者』っていうのは灯のことで合っているのだろう。

 灯が干渉する立場にいるということ。灯と干渉されるものが対等ならば、本物とやらの意味もそれとなく理解できる。

 その干渉されるものが、庵とやらには存在する。

 ならば、庵とは……いわゆる「あの世」に似た類の空間か。



 そして、気分の良いものではない。

「………ひょっとして、私歓迎されてない……?」


 転校早々これは不味い。どんな形にしろ、歓迎されてないと言われて喜ぶ輩はそうそういないだろう。

 思わず冷や汗をかいたところで、今まで忘れきっていた存在を思い出した。




「……本物、か」


 そういえばと思い起こせば、そこには変わらず佇む空目君の姿。…但し、目線に含まれる険が3割増。

 しかも、後方の少年にまで睨まれてしまっている。

 待って君たちには何もした憶えはないよと言いたいがもちろんこっちの言い分など聞いちゃくれないだろう。






 ややあって、空目君が重々しく口を開く。



「…お前の存在そのものが、俺たちには危険分子となりうるものというわけだな…」


「………っ!?」

 その眼光に思わず怯む。

 私は何事もなく平穏に過ごしたいだけなのに何この手厚い歓迎…!!(汗)



「…待って。まずは話そうじゃない空目君…」

 両手をかざして制止の意味を込めると、空目君はしばし思考したらしいのちに

「…いいだろう」と短く返答した。


「明日、文芸部の部室に来てもらう。朝8時までには村神を正門の前で待たせておくから、一緒に来い」

 すると、後方の少年がきつく私を見据えてきた。…村神君、ね……とりあえず、第一印象はお互い最悪だ。

「君は来ないの?」

「あやめと共に用意がある」

 何のだ。

 瞬時にツッコんだのは心の中だけで(ついでとばかりに裏拳つき)。

 わかったとこちらも短く了承して、今度は彼らの後ろをついて歩く。

 もう昼の授業も始まって終わってしまっていたと気付いたのはそのとき。

 そして、妙に暗い放課後の雰囲気に気付いたのもそのとき。


 そのときはまだ「転校早々授業をサボった」ということに頭を抱えて深く考えることもしなかった。


















 翌日、空目との約束は結果として破られることになる。