彼女は繊細な細工を好む。

ある日ひとつの金魚鉢を買ってきた。

金魚でも買ってきたのだろうかと思えば、少女は少し考える仕草をした。


「金魚といえば金魚なんだけどね…」

ならば何だと問うたら、彼女は下げていた手提げから小さな箱を取り出した。

中から出てきたのは、硝子細工の金魚。

「ほんものは、いつか必ず死んじゃうでしょう?」

ひとり呟いて、そっと金魚鉢の中にそれを落としこむ。

ひとつだけかと思いきや、全部で4つも買ってきていた。

「そんなの悲しいから、まがいものにしたの。初めから生も死もない、からっぽの金魚」

浮くようなつくりになっているようで、金魚は沈みもせずただ浮かぶ。

空っぽのからだを通して、屈折した光が鉢に満ちた。

「…ならばそれは、初めから死んでいるも同然だな」

どうして?目で聞いてきた少女に、「冷たいからだ」と簡潔に答える。


そうね。でも、買ってきた甲斐はあったよ。

嬉しそうに鉢を見つめる横顔に、今度はこちらが訊ねる。

少女は笑ってこう答えた。




「空目くんと、いつもよりいっぱい話せてるからね」



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02:冷たい金魚
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0406:収納