1本の電話がすべての始まりだった。










































   中立の立場








































 ことの発端はとある平日の昼間、墨村・雪村両家に電話がかかってきたことから始まる。

 このとき受話器を取ったのはどちらも当主。

 そして、電話の相手はどちらも同じ家からだった。



 少々ものものしい雰囲気の通話を終え、受話器を置いたジジイとババアの反応は。





「…………とうとうやってきたか……」



 ふたりしてこの一言に尽きた。






 そして、学校から帰宅した両家の次期当主(予定)は、まったく同じことを聞かされる。


「本日付で術師が派遣されることになったので、共に仕事をするように」










 その夜。

 いつまで待ってもやってこないその術師とやらは当主に任せようということになって、いつものように妖退治に出掛けた両人が見たもの。




 生乾きの化け物の血。

 何本か折れた木々。

 ところどころ凹みまくった地面。

 さらりさらりと風に舞う灰。

 そして。



 上からかかる声があった。










「あぁ、君たちが烏森の結界師?」








 ぽっかり空いた空間に悠然と佇む、ひとりの少女。




 右上と左下が黒、左上と右下に白を配置した着物。

 墨村であり雪村である、そんな違和感を残した配色。

 手にしているのは天穴ではなく、術のかかった符を巻いたくない。

 そして彼女が立っているのは、結界の上。

 淡々としつつもふわりと笑うその顔は、この惨状には似合わない。






 良守が呆然と呟いた。


「………結界師………?」


 時音が毅然と睨んだ。


「まさか烏森を狙って……」





 ふたりの言葉に目を瞬かせた少女は、一瞬の間をおいてけらけらと笑い出した。

 何がおかしいのかとあからさまに不機嫌な結界師コンビに、ごめんごめんとジェスチャーをして結界から飛び降りる。


 地に足をつけてみれば時音ほどの背丈。

 背中の中ほどまで伸びた髪は括られておらず、街灯に反射すると緑色がちらつく、古典的にいう綺麗な黒髪。

 しっかりと目の前のふたりを見据える双眸は髪色と良く似ていて、一瞬も怯むようすが見られない。



「わたしのことはまだ聞いてないのかな」

 そのようすだと聞いてないんだろうな、とひとりで完結してしまって、少女はすっと頭を下げる。

 少々困惑気味のふたりに向かって、穏やかなアルトで名を告げた。







「わたしの名前は。当主殿から聞いてないかな、今日からこの烏森の実地調査を担当するんだ」



 そこまで言われてようやく思い当たる。

 烏森の調査をしに、どこぞから術師が派遣されてくると。

 そういえば名前を聞いていなかった。

「大事なとこ言わねえんだからあのクソジジイ……!!」

 良守が頭を抱えて唸る。

「でも、……なんて家柄聞いたことないわ」

 時音が怪しがる。無理もない、とは肩をすくめた。

「わたしの家は関西に本拠地をおいてる。こっちまで来ることはほとんどないよ」

 因みに関西弁じゃないのは、わたしが分家の人間で、結構こっちに住んでるから。

 いらんことまでぺらぺらと教えてくれたこの術師に、知らず時音も安堵した。

 ただでさえ烏森という重圧の地を守らねばならないのに、最近は要らぬ客のせいで神経が磨り減っているらしい。



 ――――……当主も大変だな…。



 緊張の糸をほぐした時音を確認すると、は「とりあえず」と話を切り出した。





「妖退治したあとのこの惨状、片すの手伝ってもらえないかな?」












 夕方には挨拶に行くはずだったは、実は1度も通ったことがない道はすっぱりさっぱりわからないという性質の持ち主。

 ならば妖の気配でもすればその先に次期当主がいるだろうから夜まで待とうという考えにいきついた。

 そして、本当に夜まで延々待って気配のほうへ走ったのである。


 しかしのほうがはるかに早く着いてしまい、仕方がないので妖を片して待っていたというわけだった。















 裏会のトップも舌を巻くその有能な人材は、実は来るべきしてこの地にやってきた人物であることを、まだふたりは知らない。








+++アトガキ+++

 なんていうのか一応、第1話のさらに初めの話ということで。

 結界師は前から書きたくて、ずっとキャラを練っていたものだったんです。

 ですがいざ書き始めると、ストーリーが出てこないという…(汗)

 う、動かないですよこれじゃあ!