妖退治に赴き、帰ってきたのはもう夜中の2時を回った頃だった。 当然夜行の者は子供たちが多いから、部屋の大半は寝静まっている。 なるべく気をつけて、音を立てないように歩いていく。 やがて見えてきた自らの部屋。 …の手前の部屋に、煌々と明かりが点いていた。 すらり、と音もなく開かれる障子。 現れた顔は、いたく不機嫌だった。 「……まだ起きてたのか…」 開口一番そう言うと、彼女はしれっと言い放つ。 「重傷患者が出来ましたからね。頭領だっていう自覚あるんですか、あなた」 この口調からして、彼女は何もかもわかっていた。思わず苦笑がもれる。 笑ってる場合じゃありません。しかめっ面をそのままに、おのれの部屋へ引き込む。 中央に敷かれた布団に、大人しく上半身だけ脱いでうつ伏せになる。 あらわになった傷口を目にした医術師が「馬鹿でしょう」と斬って捨てた。 「また無茶したんですか。おのれの力を過信しないでください」 「うっかりしてたよ。…まぁ妖は退治したし、結果オーライってことで」 そんなことじゃいけません。きっぱりと叱られた。 わたしをここまで怒らせるのはあなたぐらいですと、ため息をつかれた。 それでも、彼女の手は術を発動させ、確実に傷を癒してゆく。 「……頭領がいなくなったら、夜行はどうすればいいんですか」 もうそろそろ治療が終わろうかという頃になって、ぽつりとこぼされた言葉。 「…オレはいなくならないよ」 「だから馬鹿だっていうんです」 保証なんてどこにもないじゃないですか。 さっきより若干震えた声が、物の少ない部屋に響く。 「……今度からは誰か連れて行くよ」 泣きそうな声で怒られてしまうと、どうしようもなくすまない気持ちになる。 +++++++ 15画漢字で30のお題より、12:憤(結界師) 連載とはちょっと設定が違いますね。夜行の医術師です。