中学からずっと一緒に戦ってきた。

 プロになって、所属チームが違って、時には対峙することも多かった。




 もう初めて出会ってから10年近く経つけれど、まだ彼の対峙したときの双眸には総毛立つものを感じる。

 来るものはすべて体を張って止める。

 そういう気迫が、意識が、彼の双眸に篭っている。

 そんな彼に圧倒され、また興奮するのだ。

 絶対にその壁を破ってやると。

 そのときの自分は、彼の恋人ではなく、フィールドに立つひとりのプレイヤー、藤代誠二になる。










 そして今。

 オレは彼の隣にいる。

 ここを出て、薄暗い廊下を歩いて階段を上った先にはきっとジャパンブルーが広がっている。

 そこまで行くと、もう彼の隣にいることなんて出来ないから。

 オレは、前線を駆けるFWだから。

 だから今はせめて、ひとり色の違うユニフォームに身を包んだこの人の隣にいたい。


「どうした?緊張してきたのか?」

 オレの視線に気付いたのか、こちらを向いてふわりと笑ってくる。

 それに対して、ふるふると首を横に振った。

「別にしてませんよ、緊張なんて。そっちこそガッチガチになってないでしょうね?」

 普段の試合で見せるような、対峙したときの挑戦的な目を見せる。

 オレには敏感な人だから、それをすぐに見取ってふ、と目を細めた。


「まさか」

 たった一言、短く。

 それでも力強く返ってきた言葉に、大丈夫だと安心する。







「そういえば、今日三上先輩たち来てるらしいですよ。タクに聞きました」

「三上たち?ってことは中西あたりも来てるのか」

「みたいですね。なんか、同窓会みたいな感じでその後飲むんだー、って言ってるみたいです」

 きっとその席では、酒の肴は今日の試合。

 勝てば上手い酒が、負ければ…中学のときからウォッカを飲める口を持っていた三上と中西がいるのだ。

 どうなるかわかったものではない。



「これは………いろんな意味で負けられないな」

 苦笑も混じっているけれど、その瞳に宿るのは紛れもない本気。

 かつて共にフィールドを駆けた、本気で戦ってきた仲間が観に来ているのだ。生半可なことは決して出来ない。

 それにオレも強く頷いて、にんまり笑ってみせた。


「――――ま、お茶でも飲んでのんびりしてて下さいよ。オレ、ボール放しませんから」

「そうはいくか。相手だって国を代表して来てるんだ、オレだってせめて構えてないと失礼だろう」

「…さりげなく相手貶しましたね」

「勝つのはオレたちだからな」

 不適に笑うその顔に、不覚にもどきりとする。プロに入って、この人は表情が増えた。

「…勝ちましょうね、絶対」

「ああ。頼むぞ、点取り屋」

「任せて下さい」

 そう言ってトン、と胸を叩くと、入口から集合がかかった。

「おーい、2人ともそろそろ行くぜ!」

「はーい!今行きます!」







 薄暗い廊下を、鮮やかなジャパンブルーが歩いていく。

 オレの前には、ひときわ大きな背をしたゴールキーパー。

 時には優しく、強くオレを抱くその身体で、今度は白と黒のコントラストを受け止める。

 オレの時のように、がっちり捕まえて放さないで。

 …まぁそこまでボール行かせないけど。


 誰よりも頼れるこの人と、いつもは対峙して。

 今日は共に同じ方向を向いて。











 コツコツと音の鳴る、冷えた廊下を抜けた先。

 階段の向こうに広がる光が、ここにまで届いて四方へ広がっている。

 あと数歩。

 歩いて上ったその先へ。




 歓声と、興奮に包まれた青の中へ。







+++アトガキ+++

 そんなワケでお題25『輝』でした。

 これは見た瞬間に「渋藤でいこう」と思ったものです。

 まだまだ十分ではないですが書けて良かったと思いました。

 渋の名前が出てこないのはわざとです。なんとなく。